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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)211号 判決 1999年6月01日

大阪府東大阪市吉田三丁目13番15号

原告

奥田朔鷹

訴訟代理人弁理士

葛西四郎

富崎元成

大阪府豊中市宝山町22番44号

被告

株式会社菱備基礎

代表者代表取締役

志賀舜太郎

訴訟代理人弁理士

清原義博

主文

特許庁が平成7年審判第12480号事件について平成9年6月13日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「ホイールクレーン杭打工法」とする特許第1467438号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明は、昭和58年11月29日に特許出願され、昭和62年8月5日の出願公告(昭和62年特許出願公告第36088号)を経て、昭和63年11月30日に特許権の設定登録がされたものである。

被告は、平成7年6月15日に本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成7年審判第12480号事件として審理した結果、平成9年6月13日に「特許第1467438号発明の特許を無効とする。」との審決をし、同年7月22日にその謄本を原告に送達した。

2  審決の理由

別紙審決書写しのとおり

3  審決の取消事由

(1)原告は、訴外戸田建設株式会社ほか2名が本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した平成6年審判第17426号事件において、平成7年2月6日に願書添付の明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求したが、特許庁は、平成9年7月17日にした審決(以下「別件審決」という。)において、本件訂正は認められない旨の判断をした。

しかしながら、別件審決は、その取消訴訟である平成9年(行ケ)第222号事件において、平成11年2月16日に言い渡された判決によって取り消され、同判決は確定した。同判決は、本件訂正を認めなかった別件審決の判断は誤りであり、この誤りは、本件発明の技術内容を本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて認定し、その進歩性を否定した別件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである旨説示している。

(2)したがって、本件発明の技術内容は、本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきところ、審決は、本件発明の技術内容を本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて認定したものであるから誤りであり、この誤りは、本件発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

理由

原告の主張3(1)の事実は、当裁判所に顕著な事実である。

なお、本件訂正は、特許請求の範囲を、

「走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法において、前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える共に(判決注・「与えると共に」の誤記と考えられる。)、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行うホイールクレーン杭打工法。」

から、

「a. 走行できる車台(2)上に架設されたクレーン本体(3)が水平面上で回転自在に設けられ、

b. 前記クレーン本体(3)には起伏自在にブーム本体(5)の一端を枢着し、

c. 前記ブーム本体(5)の先端にはブーム挿入部(6)を出没自在に設けてブーム(4)を長さの方向に伸縮自在にし、

d. 前記ブーム挿入部(6)の先端に連結したアースオーガー装置(8)を有する

e. ホイールクレーン車(1)を用いる

f. ホイールクレーン杭打工法

において、

g. 前記アースオーガー装置(8)に取り付けた掘進用のスパイラルスクリュー(11)に、

h. 前記ブーム本体(5)と前記クレーン本体(3)との間に設けた前記牽引装置により

i. 前記ブーム本体(5)を牽引しブーム(4)に曲げモーメントを与えて、

j. 前記ブーム挿入部(6)の先端を介して、前記アースオーガー装置(8)に、最大時前記ホイールクレーン車(1)のほぼ全重量を利用した曲げモーメントに基づく垂直分力を与える

と共に、

k. 前記ブーム(4)の長さをブーム挿入部(6)を引き込める事により逐次縮小させ、前記ブーム挿入部(6)の先端を介して垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧し

つつ

l. 杭打等を行う

m. ホイールクレーン杭打工法。」

に訂正するものであることも、当裁判所に顕著な事実である。

上記事実によれば、本件発明の技術内容は本件訂正後の特許請求の範囲に基づいて認定すべきところ、審決は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて本件発明の技術内容を認定したものであるから、誤っているといわざるをえず、この誤りは本件発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年5月11日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

Ⅱ.(当事者の主張)

(1)(請求人の主張及び提出した証拠方法)

請求人は、本件特許発明は特許法第29条第1項第3号の規定に該当または特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項の規定によってその特許は無効とされるべきものである旨主張するとともに、前記主張事実を立証する証拠方法として甲第6~10号証(甲第6号証:特開昭55-142826号公報、甲第7号証:実公昭57-26927号公報、甲第8号証:実公昭57-28928号公報、甲第9号証:土木学会監修「建設機械」、P.472-474、昭和46年10月15日発行、(株)技報堂、甲第10号証:実公昭45-18857号公報)を提出している。

(2)(被請求人の主張)

被請求人は、本件審判請求は、理由がないものであり、費用は請求人の負担とするとの審決を求める旨主張するとともに、乙第1~11号証を提出している。

乙第1号証:昭和54年特許願第50475号包袋

乙第2号証:昭和54年特許願第50475号の昭和57年11月30日付けの拒絶理由通知書

乙第3号証:昭和54年特許願第50475号の昭和58年3月25日付けの拒絶査定謄本

乙第4号証:実開昭52-122505号公報

乙第5号証:実公昭45-17025号公報

乙第6号証:TADANO LTD.編「HYDRAULIC CRANE REPAIR MANUAL MODE TR-500M修理要領書01」油圧回路年発行

乙第7号証:TR-500Mの油圧回路

乙第8号証:労働基準監督署長へ提出する(移動式クーレーン)変更検査申請書及び(移動式クレーン)変更届

乙第9号証:土木工事施工合理化委員会編「戸田技報」第6回土木工事施工合理化特集号、土木33、昭和56年6月発行、戸田建設発行、第67頁~第68頁

乙第10号証:鹿島建設土木関係開発技術対策統合委員会編「土木技術ニュース」No.701、1982年2月1日発行、鹿島建設発行

乙第11号証:油圧技術便覧編集委員会編「油圧技術便覧」日刊工業新聞社発行、昭和51年1月30日発行、第388頁~第399頁、第398頁~第399頁

なお、被請求人は、本件特許発明の要旨として、平成7年11月20日付けの審判事件答弁書第9頁において、

「4.5 本件特許発明の構成要件の全体

4.5.1 本件特許発明の要旨

本件特許発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載された通りにある。後述する比較検討上その構成要件ことに実施例の符号を付して分節すると、

『a. 走行できる車台2上に架設されたクレーン本体3が水平面上で回転自在に設けられ、

b. 前記クレーン本体3には起伏自在にブーム(本体)5の一端を枢支し、

c. 前記ブーム(本体)5の先端にはブーム挿入部6を出没自在に設けてブーム4を長さの方向に伸縮自在にし、

d. 前記(ブーム)挿入部6の先端に連結したアースオーガー装置8を有する

e. ホイールクレーン車1を用いる

f. ホイールクレーン杭打工法において、

g. 前記アースオーガー装置8に取り付けた掘進用のスパイラルスクリュー11に、

h. 前記ブーム(本体)5と前記クレーン本体3との間に設けた」「前記牽引装置7により、

i. 前記ブーム(本体)5を牽引し前記ブーム4に曲げモーメントを与えて、

j. 前記(ブーム)挿入部6の先端を介して、前記アースオーガー装置8に、最大時前記ホイールクレーン車1のほぼ全重量を利用した曲げモーメントに基づく垂直分力を与える(と)共に、

k. 前記ブーム4の長さを(ブーム)挿入部6を引き込める事により逐次縮小させ、前記ブーム挿入部6の先端を介して垂直方向の垂直分力を前記アースオーガーに加圧しつつ

l. 杭打等を行う

f. ホイールクレーン杭打工法。』

である。」と述べているが、この被請求人の主張は、被請求人が、本件審判事件と同様に被請求人としてなされた別件の審判事件である「平成6年審判第17426号(特許第1467438号発明に対する無効審判事件)」でなされた訂正請求である平成7年2月6日(なお、提出された訂正請求書には、平成6年2月6日と提出の年月日が記載されているが、本審判事件の手続きの経緯すなわち審判事件答弁書の提出日および特許庁での受付日印からみて、前記のように提出の年月日を認定した。)付けで審判事件答弁書と共になされた訂正請求書に添付した訂正明細書における訂正請求後の特許請求の範囲に記載されたものであるが、同訂正請求は、上記「平成6年審判第17426号」の審決(平成9年3月28日付けの)において、「訂正の請求」は認められなかったものである。

したがって、本件特許発明の要旨は、「訂正の請求」がなされなかった出願公告時の特許請求の範囲に記載されたとおりのものである。

Ⅲ.(本件特許発明の要旨)

本件無効審判においては、出願公告時に特許請求の範囲に記載されている事項を本件特許発明として本件無効審判を審理する、そして、その特許請求の範囲に記載されている事項は下記のとおりである。

「走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法において、前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により、前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に、前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与えると共に、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガーに加圧しつつ杭打等を行うホイールクレーン杭打工法。」

Ⅳ.(各甲号証)

(1)甲第6号証(特開昭55-142826号公報)には、

「1.クレーン本体に対して俯仰する主ブーム及びこれに対して伸縮若しくは俯仰回動する副ブームを備えたクレーン機の前記副ブームの先端に、回転駆動機構にて回転されるオーガースクリューを備えたアースオーガーの頭部を枢結すると共に、前記アースオーガーには被圧入物を並置して保持させ、前記アースオーガの掘削と前記クレーン機の各ブームの動作に依り該アースオーガと被圧入物とを略垂直に土中へ推進し、所定深さに達すると被圧入物のみを土中に残存させてアースオーガを引抜く様にしたことを特徴とする圧入工法」(特許請求の範囲の項第1項の記載参照)、

「クレーン機4は種々の構造のものがあるが、定置式より移動式のものが望ましく、とりわけ第1図乃至第3図に示したトラツククレーン機が最も好ましい。これは周知の如くトラック22の荷台部分に旋回機構23を介してクレーン本体24が設置され、該本体24には俯仰回動する主ブーム25が枢設されている。而して主ブーム25にはこれに伸縮自在に設けられた少なくとも一つの副ブーム26があり、図番では二つの副ブームがある場合を例示している。これら副ブーム26は例えば流体圧シリンダや、ロープと滑車を組合わせた機構に依り作動される。」(公開公報第3頁左下欄下から第1行~右下欄第12行の記載参照)、

「そして前記最先の副ブーム26の先端にはアースオーガー2の頭部を直接連結する。」(公開公報第3頁右下欄下から第1行~第4頁左上欄第1行の記載参照)、

「次に本発明の圧入装置1の作用及びこれを用いた圧入方法に就いて詳説する。

先ず、圧入すべき場所にクレーン機4を配置し、各ブーム25、26を伸長状態にしてアースオーガー2を垂直に樹立させる。

そしてクレーン機4が装備しているウインチ27を使って被圧入物3を吊上げ、その下端の掛片21を掛金具20に掛合させ、上端は挟持機構12にて掴持して第1図並びに第2図に示す如くアースオーガー2の側部にセットする。

次に、既に埋設された被圧入物3がある場合には第1図並びに第5図に示す如くこれに所定状態にて連続すべく旋回機構8を作動させて押入位置を決定し、回転駆動機構5に依リオーガースクリユー6を推進方向へ回転させる。同時に主ブーム25に対して副ブーム26を短縮させると共に主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する。第3図はアースオーガー2と共に被圧入物3を所定深さまで没入させた状態を示す。

この様な状態に達すると挟持機構12を解放すると共にオーガースクリュー6を逆に作動させて被圧入物3のみを土中に残存させる。」(公開公報第4頁右上欄第2行~同頁左下欄第7行の記載参照)、

第1図と第2図、および第1図と第2図に基づく説明内容の記載からは、走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在に主ブームの一端を枢着し、前記主ブームには副ブームを出没自在に設けてブームを長さ方向に伸縮自在であると共に前記車台に対して俯仰回動し、前記副ブームの先端に連結したアースオーガーを有するトラッククレーン車を用いる杭を圧入すること、前記アースオーガーに取り付けた掘進用のオーガースクリューに、主ブームをクレーン本体に対して下回動させて、前記副ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与すると共に、前記ブームの長さを副ブームを引き込める事により逐次縮小させ、前記副ブームの先端を介して下向きの力を前記アースオーガーに加えつつ、杭打等を行うこと、

が夫々記載されている。

したがって、これらの記載から甲第6号証には、走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在に主ブームの一端を枢着し、前記主ブームには、副ブームを出没自在に設けてブームを長さ方向に伸縮自在であると共に前記車台に対して俯仰回動し、前記副ブームの先端に連結したアースオーガーを有するトラッククレーン車を用いる杭圧入工法において、前記アースオーガーに取り付けた掘進用のオーガースクリユーに、主ブームをクレーン本体に対して下回動させ、前記副ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与すると共に、前記ブームの長さを副ブームを引き込める事により逐次縮小させ、前記副ブームの先端を介して下向きの力を前記アースオーガーに加えつつ、杭打等を行う杭圧入工法、が記載されているものと認める。

(2)甲第7号証(実公昭57-26927号公報)には、トラッククレーンを利用した自走式杭打機が記載されている。

(3)甲第8号証(実公昭57-28927号公報)には、シートパイル建込時の案内装置におけるシートパイル接続用固定手段が記載されている。

(4)甲第9号証(土木学会監修「建設機械」、P.472-474、昭和46年10月15日発行、(株)技報堂)には、

「4.4.2 トラッククレーン、ホイールクレーン、クレーン車

移動式クレーンのうち走行装置がタイヤ式のものが、トラッククレーン、ホイールクレーン、クレーン車である。」(第472頁の記載参照)と記載されているように、トラッククレーンもホイールクレーンも共に車輪で走行する走行式の移動クレーンとしてどちらも周知のものであることが、記載されている。

(5)甲第10号証(実公昭45-18857号公報)には、「本考案は軌道車或いは自動車等の運搬車に取付け特に電柱等の穴掘に使用するブーム垂直移動装置に関するもので、その目的とするところは、オーガーの先端を垂直に上下動させると共にその範囲を大幅に移動させる様にしたブーム垂直移動装置を提供しょうとするものである。又本考案の他の目的とするところは、ブーム起伏機構に油圧シリンダー等の伸縮機を使用し強力なる上下腕力を得ると共に機構的にも無理のないブーム垂直移動装置を提供しようとするものである。」(公告公報第1欄第19~29行の記載参照)、また、図面の第1~3図には、走行できる台車上に架設されたブームが台枠に水平面上で回転自在に設けられ、台枠には油圧シリンダーにより起伏自在にブームの一端を枢着し、台枠とブームとの間にブームを上下動させるとともにブームに強力なる上下腕力を与える油圧シリンダーを設け、ブームの先端に電柱等の穴掘りに使用するオーガーを有する掘削杆を取付けたブーム垂直移動装置、が記載されている。

したがって、これらの記載から、甲第10号証には、走行できる台車上に架設されたブームが台車上の台枠に水平面上で回転自在に設けられ、台枠には油圧シリンダーにより起伏自在にブームの一端を枢着し、ブームの先端に電柱等の穴掘りに使用するオーガーを有する掘削杆を取付けたブーム垂直移動装置において、台枠とブームとの間に油圧シリンダーによりブームに強力なる上下腕力を与えてオーガーにより穴を掘ることが記載されているものと認める。

Ⅴ.(当審の判断)

(1)(対比)

ここで、本件特許発明と甲第6号証とを対比する。

本件特許発明の「アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリュー」は、甲第6号証の「アースオーガーに取り付けた掘進用のオーガースクリュー」に相当するものと認められることから、したがって、両者は、走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法において、前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、ブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に、垂直分力を与えると共に、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガーに加圧しつつ杭打等を行うホイールクレーン杭打工法、の点で構成を同じくしており、両者は、下記の点で、構成を異にしているものと認められる。

<相違点1>

本件特許発明では、ホイールクレーン車を用いた杭打機であるのに対して、甲第6号証では、トラッククレーン車を用いた杭打機である点。

<相違点2>

本件特許発明では、アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、ブーム本体とクレーン本体との間に設けた牽引装置により、ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えているのに対して、甲第6号証では、ブーム本体とクレーン本体との間に牽引装置を設けているかどうかが不明である点。

<相違点3>

本件特許発明では、ブーム本体とクレーン本体との間に設けた牽引装置により、ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に、前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える、ものであるのに対して、甲第6号証では、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与するものではあるが、ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える、ものであるか否かが不明である点。

(2)(相違点の検討)

そこで、前記相違点について検討する。

<相違点1>について、

ホイールクレーンもトラッククレーンも共に車輪で走行する走行式の移動クレーンとして甲第9号証にも記載されているように従来周知のものであり、トラッククレーンに代えてホイールクレーンを採用することは、当業者が適宜なし得る程度のことと認める。

<相違点2>について、

甲第6号証には、主ブームをクレーン本体に対して下回動させること、および、副ブームの先端を介して、アースオーガーに下向きの力を付与するとの記載があることからして、直接的な記載はないものの、主ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための何らかの手段を有するものである。

そしてその手段として、走行できる台車上に架設されたブームが台車上の台枠に水平面上で回転自在に設けられ、台枠には油圧シリンダーにより起伏自在にブームの一端を枢着し、ブームの先端に電柱等の穴掘りに使用するオーガーを有する掘削杆を取付けたブーム垂直移動装置において、台枠とブームとの間に油圧シリンダーによりブームに強力なる上下腕力を与えてオーガーにより穴を掘ることは甲第10号証に記載されているように従来公知の技術手段であることからして、甲第6号証におけるトラッククレーンも、直接的な記載はないもののブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、上記甲第10号証に記載のものと同様の油圧シリンダー装置すなわち牽引装置を有するものである。

<相違点3>について、

本件特許発明が、ブーム本体とクレーン本体との間に設けた牽引装置により、ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に、前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与えるようにした点については、建設機械であるショベル系の油圧式掘削機の車体に起伏自在に枢支したブームを、車体とブームとの間に設けた油圧シリンダー装置により牽引してブームを下回動させ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントを地面に押しつけると共に、更にブームを下回動させることにより車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加させ地面への押込力すなわち掘削力を増大させることは、ショベル系の油圧式掘削機においてよく用いられている慣用手段である。

そうすると、前記相違点3)は、甲第6号証に上記慣用手段を適用することにより、当業者が容易になし得る程度のものと認める。

よって、本件特許発明は、甲第6号証に記載された発明に、甲第9号証に記載された従来周知の技術手段及び甲第10号証に記載された従来公知の技術手段そして慣用の技術手段を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定に反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項の規定によりこの特許は無効とすべきである。

Ⅵ.(結び)

以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきものである。

また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第89条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

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